アジャイルデータモデリングの発売に際して 〜翻訳者振り返りシリーズ第一弾〜
はじめまして、風音屋(@Kazaneya_PR)にはアドバイザーとして関わっております、佐々木江亜(@0610esa)です。
この度、アジャイルデータモデリング(原著名 Agile Data Warehouse Design)という翻訳書を出版することができました。 この本の発売にあたり、せっかくなので訳者の一人として翻訳に携わった感想や、そこにかけた想いについて少し文章に起こしてみます。
訳註や副読文の位置付けにすらならないかもしれないですが、この本に興味を持っていただいたり、読み進めるモチベーションを湧かせるきっかけになれば嬉しいです。
自己紹介
自己紹介が遅れましたが、私は2019年からマネーフォワードという会社に所属しています。
入社当初から4年ほど全社横断のデータ分析基盤の整備やデータ戦略の整備に携わった後、現在はB2B事業部の一つに異動し、FP&Aと分析基盤の構築を含めたデータ分析の間をつなぐような動きをしています。
創業からまだ10年ちょっとではあるものの、マネーフォワードはB2B、B2Cそれぞれに複数のサービスがあり、いわゆるマイクロサービスとして開発・運用されています。 そんな中で全社横断的なデータ分析基盤を構築する取り組みは非常に難易度が高く、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ前に進んでいる状況が続いていました。
そして、私の記憶が正しければ、2020年頃から世の中で「アナリティクスエンジニア」という新しい職種が話題にのぼり始めます。 アナリティクスエンジニアが解決すべき課題は「データはあるけど分析できる状況じゃない」というもので、 なるほど自分のやってきたことはこれだったか、そしてこれは他の企業でもあるあるなのだな、ということを感じたことを覚えています。
日本語でアクセスできる知見の少なさへの危機感
課題設定が明確になり、世の中的にも課題認識が広がっていく一方、当時はまだ世の中にはアナリティクスエンジニアリングの領域に関する知見が少なく、 特に日本語でアクセスできる情報はほとんどありませんでした。 ※風音屋の発信はもちろん、pei(@pei0804)さんのこれらの記事にも、とても助けられました。本当にありがとうございます。
そのため、なんとか英語書籍でのインプットを進めつつ2年ほどデータ分析基盤を運用していたある日、原著である「Agile Data Warehouse Design」に出会いました。 たしか、Rettyのデータ分析チームの方の発信だったと思います。 (その後、ゆずたそさんと会話していたところRettyさんにこの本が導入された経緯に「データマネジメントが30分でわかる本」の影響がありそうということが発覚しました。改めて、風音屋がこの領域をリードしていることを感じたエピソードでした。)
原著を読み始めて、すぐにその知見の幅広さと汎用性に感動しました。一方で、この原著は2011年の発売で、日本語の情報は少なく見積もっても10年以上は遅れてしまっている状況に危機感もありました。
この本にまとめられた、データモデリングの実践ノウハウをより多くの人に広めることができれば、日本におけるアナリティクスエンジニアリングのベースになるのではないか。 そして、悩める日本企業のデータ分析基盤に改善のための道筋を提示することができるのではないかと思っていたところ、 風音屋で翻訳を検討しているというお誘いをいただき、プロジェクトに参画したという経緯でした。
新しい概念とその翻訳への挑戦
知見が少ないということは、体系立てて整理された概念が少ないということでもあります。
つまり、この本では元々名前が付けられていなかった概念を多く取り扱っており、翻訳にも苦戦しました。 いたずらに新語を作ることはしたくない一方で、下手に説明しすぎると固有概念として世の中に浸透しないのではないかといった懸念もあり、プロジェクトメンバー間で何度も議論して言葉を選んでいます。
データモデリングにまつわる新しい概念を体系化し整理した点こそがこの本の一つ目の大きな功績であるので、最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、巻末の付録も参照しつつ読み進めていただければと思っています。
個人的には、特に広く新しい概念の紹介がされている「はじめに」がなかなかに読みにくいかなと思います。珍しい現象ですね。笑
手に取っていただいた際には「はじめに」で登場した新概念という伏線が、後から構造化されて回収されていくようなイメージで読むと、少し楽しめるかもしれません。
そして、実践こそが最も重要
加えて、この本はデータモデリングを実践するためのノウハウも提供してくれています。これが二つ目の大きな功績です。
例えば、ステークホルダーとのコミュニケーションについてのガイドラインが提供されている点。 さらに、コミュニケーションの結果をどうドキュメント化しておくかにまで触れられており、もちろん現場の状況によっては全部取り入れることが難しいケースもあるとは思うのですが、思考整理の拠り所にはなってくれるはずです。
また、日本語版の特別付録として巻末に追加された事例集では、既に現場でデータモデリングを実践している偉大な先人たちの取り組みも贅沢に読むことができます。
ぜひ皆様の”現場”で実践した結果「ここはスムーズにモデリングできた」といった成功事例や、「ここはそのまま取り入れるのが難しいポイントだったので、自分なりにアレンジして運用している」といった試行錯誤も含め、勉強会等で発信いただけると嬉しいなと思っております。
謝辞
最後に、一緒に長く困難な道のりを走り切ってくださった(時に、適切なプレッシャーで発破をかけてくださった)プロジェクトメンバーの皆さんと監訳の風音屋さん、レビューに参加してくださった皆様、そして講談社サイエンティフィク横山さん、本当にありがとうございました。
というわけで、無事発売できた「アジャイルデータモデリング」、ぜひ手に取っていただければ幸いです。
余談
余談ですが、タイトルを決めるのが難しかったことも印象に残っています。
原著は「Agile Data Warehouse Design」ですが、発刊当時と状況が変わっていたり、「Data Warehouse」という表現自体が、受け手によって想像するものが違うのでは、という意見もあったりで、複数のMTGにわたってプロジェクトメンバー間で喧々諤々の議論になりました。笑
ゆずたそさんはこういった場面でも「どんな課題を抱えている、どんな人たちにこの本を届けたいか」を意識して議論をリードしてくださり、さすがの視点に感動しました。